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メダル獲得にかかるリスク 

よく、メダル獲得の際に報奨金がどうの、選手の待遇がこうのといった話を耳にする。他人の懐に某かの大金が入ることに、関心がない人は少ない。逆に、その大金がだれのリスクによって発生したかについて興味を持つ人も、同様に少ない。
競技の特性にもよるが、多くのスポーツで活躍できる年齢は30歳前後までといえる。なかでも従来からプロスポーツとして親しまれているものを除くと、選手にとって「旬」といえる期間はごく限られてくる。人生を賭して競技をするの選手もいるので、選手活動を続けること自体がリスクになっている人もいるはずだが、自分の好きでやっていることだろうから、それ自体はあえて問題にしたくない。しかし、自身にかかるリスクの軽減を、安易にスポンサーと呼ばれる存在に求める傾向が存在するのは問題だ。
メダルとは、あるいは金メダルに限定してもよいのだが、いったいどんな価値があるのか。競技者自身にとっては、単なる自己満足の延長線に過ぎないかもしれない。観戦者は、そこにいっときの感動を求めるか、そこに辿りつくまでのドラマに興じ、ハッピーエンディングを求めるのか。スポンサーと呼ばれる存在は、そこにいたるまでに人的労力を含めてあらゆる費用を負担し、競技者は自身の時間と肉体を捧げる。ここで捧げるとしたのは、ふと「...devoted my entire life into speedskating...」とアメリカのmost decorated female athlete として知られる、Bonnie Blair氏が、とあるスケート大会のあとに自身のキャリアをこのように表現したのが印象に残っていたからだ。彼女はdevoteということばどおり、おそらく、競技からの見返りを期待しなかった。実際には多くのリターンが現在でもあるはずだが、彼女は常にスケーターとしての自身に中心を据えることのできた稀有な存在といってよい。現実問題、彼女のように、見た目奔放に、シャバを離れてスポーツに没頭できる人間は少ない。
ではいったい、金メダルにかかるリスクを誰が負うのか。
発明の対価で話題になった中村氏の件で、発明者の報酬に俄然注目が集まったことは記憶にあたらしい。スポーツの成績においても注目されるのはいつも完成あるいは成功を収めた人だ。となると当然、次の瞬間、大衆の興味は成功者の報酬に移る。
たしかに、実際に最後のハードルを越え、超人的なアプローチで実りを獲得した当人に最大の功労があることは頷ける。しかし成功を収める以前は、対価を受ける当人のまわりには、多くの場合、同一条件のもとに目標をひとつにした同志がいるはずだ。成功を収めた競技者や研究者側からすると、自己の成果を一連の確率の中から生まれたものと評価されることに意義を唱えたくなるかもしれない。しかし、使用者側のスタンスに立てば、成果を出す以前の段階においては成果を出さないかもしれないリスクのほうが勝るわけで、よほどの見込みがなければ厚遇などありえない。最後の最後、ゴールラインを切るまでは、使用者側がリスクを払い続けているのだ。もし、活躍や成果を保証できるほどの人材ならば、採用段階での厚遇契約やインセンティブによる後払いをつけておけるので問題ない。言い方が極端かもしれないが、使用者側は、結果としては不確定な成果分を超えるリスクを多くの場合払い続けているといってもよい。
したがって、本来あるべき姿は契約自体が単なる雇用契約だったり、ほかの従業員と同じ待遇なら、結果いくら驚きの成果が出たとしても、高額の報酬を要求できる立場にはない。成果を出した実績をもとに、新たな契約を結べるなら結べばいいし独力で歩き出すならそれもいいだろう。

使用者側がリスクを超えるメリットの可能性をイメージできているなら、今話題の安藤美姫選手のように、どこからともなくオファーをかけてくるはずだ。残念ながらスピードスケートの現状としては、大学や高校を卒業した選手に高額のオファーがかかることはまずない。高額のオファーといわずとも、それなりの選手活動を支援できる待遇さえ用意されない。いや、用意されないなどと表現してはいけない。選手・育成側が自分の活動を評価してもらうだけのプレゼンをしていない。
選手がスポンサーを得るためには何が必要か。第一に、選手活動をサポートするリスクを負うことにより、スポンサー側が将来的にリスクを「はるかに」超えるメリットをうる可能性を説明できなくては始まらない。「はるかに」、というところが重要だ。「選手をサポートするのに1億かかりました。広告効果が2億です」。これでは普通の商売だ。なにも好き好んで、海のものとも山のものともつかない博打に出る必要はない。「1000万かかります。でも、大化けして活躍すれば広告効果は1億どころじゃありません」。これなら「リスクをとってもいいかな」と考えてもらえるかもしれない。しかし悲しいかな、選手を育成している側は、このような現実的ソロバン勘定を持ち合わせてはいない。
このくらいの儲けをスポンサー側にもたらせる自信がなくては、スポンサーの賛同など得られるはずはない。中には気前よく大枚を振舞ってくれる方がいるかもしれない。しかし、それはタニマチ止まりで、この国のスポーツシステムを変えていく力にはなりえない。利益の追求を第一義とする企業から、その一環として認められる力量を持つことが育成側に求められる。
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[ 2005/03/31 23:03 ] スポーツ観戦の壺 | TB(1) | CM(0)

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